原則毎月初週の金曜日から劇場で無料配布している「シネコンウォーカー」。
次に何観る?っていうときに役立つ、最新映画情報が紹介されているテイクフリーのミニ雑誌で、電子版もリリースされている(下記バナーをクリック。常にHPトップにバナーあり)。
ここで創刊当時から、シネマシティ企画担当の遠山が連載している映画紹介コラム「TO SEE OR NOT TO SEE」。
シネコンウォーカー電子版の存在をもっと知っていただきたいのと、新作の宣伝もかねて、コラムだけ抜粋して毎月ご紹介。
『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』8/18(金)公開
血管が浮き出し脈動する機械。何の用を為すとも知れない耽美的手術器具。女性器を暗喩する深く裂けた傷口。頭部を破裂させるサイコキネシス。蝿と融合した男。
いわゆるホラージャンルからキャリアをスタートするも、その突出して異様な美術性と思いも寄らぬ角度からの思想性、そして変態的エロスの容赦ない描写で、到底その枠には収まりきらず、多くの奇怪な作品を撃ち放って映画史に特異な地位を築いた映像作家デイヴィッド・クローネンバーグ。
ここ20年ほどはホラー的な要素は抑制し、人間ドラマに重きを置いた作品を撮り続けていたが、久しぶりの、いかにもクローネンバーグが炸裂する新作が登場。
舞台は近未来。人間は環境に適応して進化し、痛覚を失っている。この世界において、その進化がさらに激化する「加速進化症候群」という症状の男が主人公である。男は役には立たない新たな臓器が次々に体内で作られてしまうのだ。
ここからがクローネンバーグ的なのだが、この男、元外科医の女性と組んで公衆の面前でその不要な新臓器を摘出して見せるアートパフォーマンスを行う芸術家なのである。しかも女性はその臓器にあらかじめタトゥーを入れておくのだ。
これはいったい何なんだ?
宇宙生物のような異様なフォルムの自動手術マシンに男は横たわり、巨大なカマリキのカマのようなものが開腹し、体内をさぐって新臓器をさがす。それを何十人という観客が息を飲んで見守る。
そして見事なタトゥーが施された臓器が摘出されると、歓声があがる。恍惚の表情を浮かべる者も。
やがて物語は、プラスティックを消化できる新たな臓器を持つ子どもを巡って展開していく。これで環境問題が解決するのではないか、と。それが人間の進化だと。
とんでもない問題提起だ。クローネンバーグは本作を「人間の進化についての黙想」と説明する。
この不可解の極北こそ、クローネンバーグを観る悦楽。普通の人には勧めにくい今年度最高の劇薬。
2023年8月18日(金)公開
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